「いいね、面白いね」
会社で新しいアイデアを提案すると、そんな言葉が返ってくることがあります。会議室では前向きな雰囲気になる。みんなで意見を出し合い、何かが始まりそうな気がする。
でも、会議室を出たら、何事もなかったように元の仕事に戻っている。私は前職で、そんな経験を何度もしました。
「面白いね」の次がない
私は生産技術の仕事が好きでした。品質を良くする、設備を工夫して使う、工数を減らす。仲間と一緒に改善を形にしていくことに達成感がありました。
その一方で、「こんな技術を使ったら面白い」「こんな製品を作れないだろうか」と、新しい開発や事業にも関わりたかったのです。会社にも、その思いを繰り返し伝えていました。
反応が悪かったわけではありません。最初は「いいね」「面白いね」と言ってもらえる。会議の場では盛り上がることもある。でも、そこから具体的な行動につながらない。次に集まったときも、また同じような話をしている。そんなことが続きました。
会社は「挑戦しよう」と言っているのに
多くの企業が、事業計画や年度方針に「新しいことに挑戦する」と掲げます。その目標自体は素晴らしいと思います。私も、新しいことを考えるのが大好きです。
ただ、その言葉を現場で働く一人ひとりの行動につなげるのは、簡単ではありません。
日々の生産を守る仕事には、納期も品質もあります。新しいアイデアが出ても、誰が調べるのか、いつ時間を取るのか、どこまでなら試せるのか。そこが決まっていなければ、結局は普段の仕事が優先されます。
私は、会議で賛成してくれた人たちに、やる気がなかったと決めつけたいわけではありません。むしろ、やってみようと思ったときに進めるためのプロセスが、十分に用意されていなかったのではないかと、今は考えています。
会議のあと、何をするのか
では、どうすればいいのでしょうか。私はまず、会議の最後に「次に何をするか」を具体的に決めることが大切だと思います。
例えば、最初から大きな事業計画を完成させる必要はありません。誰のどんな困りごとを解決したいのか。社内に使える技術や設備はあるのか。まず何を確かめれば、実現できるかどうかが少し見えてくるのか。
そして、誰が、いつまでに、その最初の確認をするのか。必要な時間や費用を誰が認めるのか。試してみて難しければ、どこで判断を見直すのか。
これは私が過去の経験から、今なら必要だと思う進め方です。当時の会社にこうした仕組みがまったくなかったと断定するつもりはありません。ただ、少なくとも私自身は、アイデアを次の行動に変える道筋をつかめずにいました。
全員に同じ挑戦を求めなくていい
会社の目標を全社員に理解してもらうことも大切です。でも、「新規事業に挑戦しよう」と言われて、全員が同じように動きたいわけではありません。毎日の生産を安定して支えることに誇りを持つ人もいます。
だからこそ、挑戦したい人が動ける仕組みと、既存の仕事を守る人が安心して働ける仕組みの両方が必要なのだと思います。現場の協力を当然のものとして求めるのではなく、負担やリスクも一緒に考える。そのうえで初めて、新しい取り組みは前に進められます。
「いいね」で終わらせない会社へ
新しいことを始めるには、アイデアも熱意も必要です。でも、それだけでは形になりません。
会議室で生まれた小さな可能性を、現場で試せる計画にする。関わる人の事情を聞き、技術や設備を確かめ、次の一歩を決める。そんな地道な仕事が、実は一番難しく、一番大切なのではないでしょうか。
私は「面白いね」という言葉が好きです。だからこそ、その言葉の次に、「じゃあ、まず何から試そうか」と続く会社が増えてほしいと思っています。

コメント