
品質を良くしたい。そう考えたとき、図面の公差を厳しくする。製造業では、そんな判断が行われることがあります。
もちろん、必要な精度を決めることは設計の大切な仕事です。でも私は、生産技術や光学部品のものづくりに関わってきた経験から、ときどき疑問に思うのです。
「その精度、本当に必要ですか?」
図面の数字だけが、急に厳しくなる
お客様から、もっと品質を上げてほしいという要求が来る。すると、部品の寸法公差や管理基準を厳しくする方向に話が進むことがあります。
ところが、加工機は同じ。製造方法も同じ。設備の能力や工程そのものは変わっていない。それなのに、昨日まで合格だった部品が、新しい基準では不合格になる。
そのとき、苦しい思いをするのは現場です。測定回数を増やす。選別する。調整する。管理表を増やす。厳しい公差に入れるための仕事が増え、働く人の負担も大きくなっていきます。
本当にその精度が必要なら、加工方法や設備、工程能力も含めて見直すべきです。数字だけを厳しくして、現場の努力で何とかしようとするのは、設計や品質管理のあり方として考え直す余地があると思っています。
図面どおりのレンズでも、画像がぼける
私は以前、カメラに使う光学系の部品に関わっていました。レンズのものづくりは本当に難しい仕事です。
部品単体では図面の公差に入っている。それでも、複数のレンズを組み合わせ、光学系として評価すると、期待した画像性能が出ないことがあります。画像がぼける。思ったような結果にならない。そこで設計へのフィードバックや変更が必要になることもありました。
生産ラインでは、組み合わせを工夫することで品質を安定させることもありました。あるレンズを別のカメラに組み合わせると、性能が改善する。そんなことも経験しました。
これは、図面の公差を守らなくていいという意味ではありません。部品ごとの要求精度と、組み上がった製品の性能との関係をきちんと理解しなければならない、ということです。最終的な画像品質を左右する要因は、一つの寸法だけではないのです。
測れない精度を要求していないか
測定にも同じことが言えます。図面や規格に非常に細かい数字が書かれていても、現場にある測定機では、その違いを十分な確かさで判定できないことがあります。
そうなると、より高価な測定設備や、時間のかかる測定方法が必要になります。ここで考えたいのは、単に測定機の表示桁数や分解能だけではありません。測定のばらつきや不確かさも含めて、その公差に対して適切に合否判定できるかということです。
もちろん、安全性や機能を満たすために高精度な測定が必要な製品もあります。そこは妥協してはいけません。でも、必要性を確かめないまま精度だけを求めれば、設備投資も検査工数も増えてしまいます。
要求を厳しくする側と、作る側
海外のものづくりに関わってきた中でも、私は品質要求と現場の負担の関係を考えてきました。
かつて日系企業が海外のサプライヤーに厳しい要求を出していた場面もあったと思います。そして今は、海外のお客様から日本側が厳しい要求を受けることもあります。
これは、どの国の人が厳しい、という話ではありません。お客様と作り手の間で、要求を出す側が簡単に公差を変更できても、その変更を実現する側には設備能力や検証、コストの問題があります。
だから私は、要求する側にも「なぜその公差が必要なのか」を説明する責任があると思っています。
最終製品から逆算して考える
私が大切にしたいのは、お客様が最終製品に求めている性能や品質から考えることです。
どの機能を守るための公差なのか。部品のばらつきが組立後の性能にどう影響するのか。工程で安定して作れるのか。必要な精度を適切に測れるのか。設計、生産、品質、計測の担当者が、こうしたことを一緒に考える必要があります。
公差を緩くすればいい、と言いたいわけではありません。必要なところには必要な精度を求める。その代わり、根拠のない厳しさを現場に押しつけない。
品質とは、図面の数字をひたすら小さくすることではありません。お客様が必要とする性能を、無理のない設計と工程で安定して実現すること。
私はこれからも、「その精度、本当に必要ですか?」と問い続けたいと思っています。

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