「今年は利益10億円を目指す」「もっとチャレンジしよう」「風通しの良い会社にしよう」
経営層から、そんな言葉が出てくることがあります。私は以前、大きな組織で働いていたとき、こうした目標と現場の実態がうまくつながっていないと感じることがありました。
トップには情熱のある人も多いと思います。それなのに、組織全体を見ると、なぜか思ったように動かない。私は、その間をつなぐ仕組みが足りないのではないかと思っています。
「利益10億円」は、どうやって達成するのか
例えば、経営層が「今年は利益10億円」と目標を掲げたとします。
管理職はそこから、A製品の売上5億円、B製品の売上3億円、といった製品別の計画を作っていく。もちろん、利益目標と売上計画は別の数字ですから、本来は原価や経費も含めて整合させる必要があります。
でも、私が問題だと感じるのは、その数字が現場で本当に実現できるのかという検証です。
お客様は本当にその数量を必要としているのか。新しい案件は受注できる見込みがあるのか。設備能力や人員は足りるのか。生産するための投資はいくら必要なのか。
こうしたことを十分に詰めないまま数字を割り振っても、計画は計画のままです。昔から「鉛筆なめなめ」と言われるような、帳尻を合わせた数字になってしまうこともあります。
生産技術は、経営の数字を現場の数字に変えられる
私は、ここに生産技術の重要な役割があると思っています。
A製品を5億円売る計画なら、単価から必要な出荷数量を考える。そこから生産数量、タクトタイム、稼働率、歩留まり、必要な設備と人員を見積もる。設備投資をどこまで抑えられるか、既存設備の改造で対応できないかも検討する。
もちろん、営業や経理、製造などとの連携が必要です。生産技術だけで経営計画を作れるわけではありません。それでも、現場を知る人が加わることで、目標が「実際に何をすれば達成できるか」という計画に変わっていくはずです。
そして、どれだけ細かく計画しても、予定どおりにはいきません。
バックアッププランは、突然生まれない
もしA製品の受注が計画を下回ったら、どうするのか。
そのときになって「別の仕事を取ってこい」と言われても、すぐに新しい案件が生まれるわけではありません。
私は、普段から似た技術を使える新しい用途や、可能性のあるお客様との案件を育てておくことが大切だと思っています。試作や評価を進め、小さくても実績を作っておく。そうすれば、一つの製品が計画に届かなかったとき、別の案件で補える可能性が出てきます。
これは単なる売上の穴埋めではありません。会社が持っている技術を、次の事業につなげておくことでもあります。
「チャレンジしよう」と言うだけでは、人は動かない
数字の計画とは別に、もう一つ難しいことがあります。人の気持ちです。
経営層が「挑戦する会社になろう」「もっと風通しを良くしよう」と呼びかけても、現場の空気がすぐに変わるとは限りません。
私は若い頃、現場の改善を提案して「うるせえ」と言われた経験があります。経営層がどれだけ挑戦を歓迎しても、実際に働く場所で提案が受け止められなければ、次に手を挙げる人は減ってしまいます。
本社と工場では、見ている景色も違います。現場には、地元で長く働き、安定した生産を支えることに誇りを持つ人もいます。全員が新しい事業に挑戦したいわけではありません。それも尊重すべきだと思います。
会議室で理念を説明しただけで、人の考え方が変わるわけではないのです。
働きやすさを、残業時間だけで測らない
私は「働きやすい職場にするために残業を減らそう」という話にも、少し引っかかることがあります。
長時間労働を減らすことは大切です。ただ、残業代が収入の一部になっている人にとっては、残業が減ることがそのまま手取りの減少につながる場合もあります。
また、残業時間が評価や収入に結びつきすぎる仕組みでは、仕事を早く終わらせる工夫が本人の得にならないこともあります。だからといって、意図的に問題を起こす人が一般的だと言いたいわけではありません。問題にしたいのは、効率よく成果を出すことが報われにくい制度のほうです。
残業を減らすなら、同時に基本給や評価の仕組み、仕事の進め方も考える必要があると思います。
成果と達成感が、現場に返ってくる会社へ
自分のアイデアで工程が改善した。仲間と工夫して、新しい製品ができた。難しかった仕事をやり切った。
私は、そうした成果を会社だけのものにせず、関わった人たちにも返していくことが大切だと思っています。
金銭的な評価も一つの方法です。ただし、個人の数字だけで競わせれば、品質や安全、チームで支える仕事が評価されなくなるおそれもあります。成果報酬だけでなく、改善への貢献や技能、チームの成果をどう認めるかまで考えたいのです。
そして、お金だけではなく、達成感や感動を仲間と分かち合えることも、私は大切にしたいと思っています。
経営目標を現場で実行できる数字にすること。計画が崩れたときの次の手を育てておくこと。そして、挑戦した人や毎日の生産を支える人が、それぞれ報われる仕組みを作ること。
数字を掲げるだけでも、人に頑張れと言うだけでも、会社は変わらない。
私は、経営と現場の間にあるこの距離を、もっと縮めていきたいと思っています。

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