生産技術はブラックボックスの塊。だからこそ、もっと伝えたい

「あの会社は、部品洗浄ですごい技術を持っているらしい」

製造業に関わっていると、そんな話を耳にすることがあります。でも、具体的に何がすごいのかは、なかなか分からない。どんな溶剤を使い、どんな条件で洗浄し、どう乾燥させているのか。そこまで外に出てくることは、ほとんどありません。

私は、それには理由があると思っています。ものづくりの世界では長い間、「ブラックボックス」が競争力を守る方法の一つだったからです。

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そもそも、ブラックボックスとは何か

ブラックボックスとは、内部の仕組みが外から見えなくても、入力と出力からその働きを捉えられるものを指す言葉です。半導体や電子回路を思い浮かべると、分かりやすいかもしれません。外から見ただけでは中で何が起きているか分からなくても、装置としての機能は利用できます。

この言葉は半導体だけに由来するものではなく、工学やシステムの分野でも使われてきました。製造業で「ブラックボックス技術」というと、製品や成果は分かっても、それを実現する加工条件、設備の構造、製造ノウハウまでは外部に見えない技術、という意味で使われることがあります。

「ブラックボックス」が強みだった時代

今から20年ほど前、私が製造業の仕事を始めた頃は、「差別化技術」「独自技術」「ブラックボックス技術」といった言葉をよく聞きました。

他社にはできないものづくりをする。そのための設備や工程、条件を社内に蓄積し、簡単には真似されないようにする。競争するうえで、それは自然な考え方だったと思います。

だから、「うちにはこんな技術があります」と言いたくても、肝心な部分は説明できない。外から見えるのは完成品や大まかな工程だけで、現場で何を工夫しているかまでは伝わりにくかったのです。

生産技術の仕事は、秘密の塊だった

私は以前、生産技術の仕事をしていました。今でも、ものづくりの中で非常に重要な仕事だと思っています。

設計された製品を、どうすれば安定して作れるか。品質のばらつきをどう抑えるか。どんな設備を使い、どんな順序で組み立てるか。製造現場の課題を設計にフィードバックしたり、設備投資や工程改善を考えたりすることもあります。

会社によって担当範囲は違いますが、生産技術には設計と現場をつなぐ知恵が集まります。そして、その知恵の多くは社外に簡単に出せない情報でもあります。

加工条件、設備の構造、検査方法、不良を減らすための工夫。まさにブラックボックスの塊です。だからこそ、生産技術の仕事がどれほど面白く、重要なのか、社外にはなかなか知られてこなかったのではないかと思います。

でも、秘密を全部明かす必要はない

今はSNSなどを通じて、企業が自分たちの取り組みを直接発信できる時代です。私は、ここに大きな可能性を感じています。

もちろん、溶剤の配合や加工条件、顧客の製品情報まで公開する必要はありません。秘密保持契約や知的財産を守ることは、今でも大切です。

でも、「難しかった部品の洗浄を安定させた」「古い設備を改造して別の製品にも使えるようにした」「検査工程を見直して現場の負担を減らした」。そんな工夫や成果なら、公開できる範囲を確認したうえで伝えられることもあるはずです。

技術の秘密を守ることと、技術の価値を伝えることは、同じではありません。

知られていない技術は、つながる機会も少ない

私は、会社の中に眠っている技術や経験が、外から見えないままになっているのはもったいないと思います。

ある工場では当たり前に使っている装置が、別の業界では新しい解決方法になるかもしれない。ある会社が苦労して身につけた工程改善の知恵が、別の企業の困りごとに役立つかもしれない。

でも、何ができる会社なのか分からなければ、相談することさえできません。

私は、そうした技術と困りごとが、もっと出会えるようになってほしいのです。

現場の工夫を、会社の言葉にする

そのために、企業が発信する内容は、必ずしも新製品の発表や大きなニュースでなくてもいいと思います。

日々の設備改善。品質を安定させるための工夫。古い設備を直して使い続ける知恵。そうした話の中にも、その会社らしい技術があります。

ただし、現場の人に毎日SNS投稿を義務づけたいわけではありません。公開してよい情報を会社として確認し、発信したい人が無理なく協力できる形が必要だと思います。

これまでブラックボックスとして守ってきたものづくりの知恵を、すべて公開する必要はありません。それでも、外に伝えられる価値はきっとあります。

秘密は守る。でも、可能性まで閉じ込めない。

私は、そんなふうに企業と技術がつながっていくものづくりを増やしたいと思っています。

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